5 のんびり VRMMO 記 1
今、世界中で売り出されているVRMMO【Rリ
ア
ル
EAL&Mメ
イ
ク
AKE】、通称R&M。
R&Mを発売したのは【幻げ
んそうものがたり
想物語】という日本の小さな会社で、今やVRMMOを語
る際には外は
ず
せない企業へと成長した。
ネットに繋つ
な
がったパソコンと、専用のVRヘッドセットさえあれば手軽にプレイできる。
そんなお手軽ゲームの人に
ん
気き
の理由は、高こう
速そく
演えん
算ざん
が可能とする、誰もが1度は憧あこがれ
るファ
ンタジー世界のリアルな再現だった。
どこまでも広がる大地、己お
のれの判断が生死を分ける戦闘、ギルド対ギルド戦、AI(人工
知能)搭と
う
載さい
でより人間らしいNPC。そして、職業総数1万×各種スキルという、無限大
の可能性!
『もう1人の自リアル分を作メイクせよ
り出せ!』
そんないささか壮そ
う
大だい
過ぎるゲームのプロモーション映像を妹達に見せられたんだが、大
してゲームをやったことがない俺、九こ
このえつぐみ
重鶫に一体何をさせようと言うんだ?
まぁ、あ
る程度予想は付くけど……。溜た
め息いき
をつきたい気分を抑おさ
え、俺は少々興こう
奮ふん
気ぎ
味み
の妹2人に
67 のんびり VRMMO 記 1
顔で、我わ
が妹ながら可か
愛わい
らしい容よう
姿し
だ。
双子は母親似なので、父親寄りの俺とはあまり似ていない。まぁ、当たり前だけど。
「違う。ゲームならある。つぐ兄に金きん
銭せん
的な負ふ
担たん
を強し
いることはない」
「?
……は?」
「この間、つぐ兄ぃがいない時、お父さんにねだって買ってもらいましたー!」
「……何やってんだ、あのクソオヤジ。あとで母さんに電話してやる」
「お父さんは娘に甘い。これは常識。ちょろい」
俺は盛せ
い
大だい
に溜め息をつき、頭痛の種となりつつある親父に内心で文句を言った。
母さんにチクって、今度赴ふ
任にん
先から帰って来たらアイツの料理だけ抜きにするか。そん
な考えが頭を過よ
ぎ
る。
いつもは朗ほ
が
らかに笑う母さんだけど、怒った時は怖こわ
いの一言に尽つ
きる。取り付く島もない。
「でも、だったら俺に言う必要ないんじゃないか?
買っちゃったものは仕方ないし、お
前達はゲーム好きなんだから自分でやれるだろう?」
視線を向けた。
「とりあえず、人の部屋に入る時はノックしろ。いつも言ってるだろう?」
「うっ、ごめんなさい。でも、つぐ兄に
ぃに大事なお願いがあって来たの!」
「ん、大事。すごく大事」
「……はぁ、大方このゲーム買えってんだろ」
ゲームのプロモーション映像が流れるノートパソコンを持ちながら、一ひ
と
回まわ
りも歳の違う
双ふた
子ご
の妹達のうち、姉である九重雲ひばり雀が期待の眼まな
差ざ
しで訴うったえた。
その隣と
なりに
は妹である鶲ひたきが
立っており、ずっと後うし
ろ手で
に持っていたらしい紙袋を俺に見せ
る。そこには大手家電量販店のロゴマークが印字され、いつも冷静な彼女もどこか誇ほ
こ
らしげ。
俺は思わず、我が
慢まん
していた溜た
め息を漏も
らしてしまった。
右に髪を結ゆ
ってるのが雲雀、左に髪を結ってるのが鶲だ。一いち
卵らん
性せい
の双子なので顔は同じ
だが、性格や話し方が違うので、慣れれば見分けは簡単だと思う。
雲雀は元気いっぱい、鶲はやや感情の薄い口く
調ちょうが
特とく
徴ちょうだ
。そして、雲雀が俺のことを「つ
ぐ兄ぃ」と呼ぶのに対し、鶲は「つぐ兄に
い
」と語尾を伸の
ばさない。
2人とも柔らかい黒髪で、明るい色のぱっちりした目をしている。幼お
さなさが強調された丸
89 のんびり VRMMO 記 1
「うん、よく分かったねー」
「お風呂、背中流す。妹の色い
ろ
仕じ
掛か
けは兄に効く」
「……どこでそんな知識手に入れるんだ、鶲」
「ふふっ、乙お
と
女め
の秘密」
仕事中も、買い物中も、料理中も、風呂に入ってる時すら説得しに来る2人の姿が目に
浮かぶ。
ふーむ。15歳以下は20歳以上の同伴が必要とか、そもそも大丈夫なゲームなのかね?
倫りん
理り
的てき
にヤバかったりしないのか。
今日は土曜日で、時刻は午前11時を少し過ぎたところ。仕事がない実にのんびりとした
休日のため、朝飯と昼飯は兼け
ん
用よう
のつもりだった。
俺は自室のソファーに座り、返事をまだかまだかと待つ妹達を眺な
が
めて、しばらく沈ちん
黙もく
し
思考を巡め
ぐ
らせてから口を開く。
「分かった。ただし、お前達に悪影響がありそうならすぐ止めるからな?
あと、俺にゲー
ムの腕を期待するなよ」
「やっ、やったー!
つぐ兄ぃ、ありがとう!」
俺はふと首を捻ひ
ね
った。テレビやパソコン、ソフトがあればゲームはできるのだし、俺は
要い
らないだろう。ちょっと言い方は悪いけど、勝手にやればいいのだ。
そんな疑問も双子はお見通しだったのか、雲雀が上機嫌で口を開く。
「ふっふっふ。何な
故ぜ
やらないか、そ・れ・は……」
「私達は13歳、レーティングに引っ掛かった。15歳以下は、20歳以上の人と同ど
う
伴はん
じゃない
とプレイできない。無む
念ねん
」
「ひぃちゃん、私が言おうとしたのに酷ひ
ど
いよぉ。まぁそんな訳で、つぐ兄ぃのお力添ぞ
え
をっー!」
片手にノートパソコンを持ちながら、答えを溜めに溜めた雲雀は、焦じ
れた様子の鶲に肝かん
心じん
の台せりふ詞を言われてしまった。そのせいか一瞬情けない表情をするも、パソコンを持って
いない手を顔の前で立て、俺を拝お
が
む体勢となる。
なるほど。だからそんなに必死なのか。
「……どうせ嫌だって言っても、大方ずっと説得し続ける気だろう?
俺が首を縦たて
に振る
まで」
1011 のんびり VRMMO 記 1
「無理に性別を偽いつわる
ことはできるけど、それはただのオカマさん」
「……それは、嫌だな」
「私達がつぐ兄守る。一緒にキャラメイクするから、頑が
ん
張ば
ろう」
「はいよ」
「じゃー、ログインするよ!」
そして俺達3人は、ヘッドセットに付いたボタンを押した。すると意識が沈し
ず
む感覚に襲おそ
われ、目の前が真ま
っ暗くら
になる。
初めての体験に、俺は多少の心こ
こ
地ち
悪さを感じた。
◆
◆
◆
不意に意識が浮上する。真っ白な部屋の中だ。隣に双子がいるのを確認して、俺はあた
りをキョロキョロと見回した。
目ぼしい物は特に何もないな。壁一面が真っ白で統一されているので、距離感がつかめ
ない。
俺は自身の手を眺め、握に
ぎ
ったり開いたりを繰く
り返して首を捻ひね
る。
「一緒にできて嬉うれ
しい。つぐ兄の気持ちが変わらないうちに、すぐ準備する」
俺の言葉にピョンピョン跳は
ねて喜ぶ雲雀。口元を緩ゆる
めていそいそと俺の隣となりに
座り、紙袋
からゲームを取り出して準備する鶲。
行動力の高さにお兄ちゃんは脱だ
つ
帽ぼう
しちゃうよ。ゲーム好きなのは誰に似たのか。
俺は鶲から、すごく格好いいヘッドセットを手渡された。
これはこのゲーム専用のVRハードという機械で、頭に装着して、横にあるスイッチを
押せば仮想世界に入ることができる。
もちろん、ネット回線のあるパソコンに端た
ん
子し
を繋つな
げないと意味がないらしい。R&M専
用ヘッドセットなので、他のゲームでは使えない。
使用中は脳の
う
波は
が管理され、現実で身からだ体
を動かしているのと同様の感覚を得られるそうだ。
ということは、俺は人と比べて運動が得意ではないのだが、それは仮想世界でも同じな
のか……。ふむ、ちょっと残念。
「つぐ兄ぃ。歳、外見、性別は現実が反映されるからね?
あぁでも、人外系の職業を選
べば固有装備があるから、人間とはかけ離れた外見になれるよ!」
「……へぇ、最近のゲームは本格的なんだな」
1213 のんびり VRMMO 記 1
ましょう!』
「おー、胸がドキドキするねー!
早速作ろう!」
「雲雀ちゃん最初に作って。わくわく、わくわく」
「俺は最後だな。ただでさえゲームするのとか久々だから、2人を参考にしないと……。
手伝ってくれるか?」
「「もちろん!」」
雲雀が張り切った声を上げた。そして、どうやら鶲も張り切っている。
普段通り無表情のままだが、心情が口に出ている。いつも年齢に似合わず落ち着いてい
るので、こんな鶲を俺は久しぶりに見た。
「あ、15歳以下の女の子限定職がある!
ふっふっふ、コレとアレでー」
「雲雀ちゃんはタンク職を目指す。タンクは皆み
な
の盾たて
。敵の攻撃にひたすら耐た
える。一番大
変。だけど遣や
り甲が
斐い
がある職業」
「へぇ、そういうことまで考えるのか。奥が深い……」
「ここがゲームの世界?
ふむ、どう見ても俺の手だ……」
「……ハッ!
よっ、ようやく私が憧あ
こがれ
た、R&Mの世界に来れたー!」
「落ち着け、雲雀」
「……雲雀ちゃん、ここはまだ玄関口。キャラメイクしないと」
興奮気味の雲雀に対し、すぐに冷静さを取り戻した鶲が手をかざしながら「キャラメイ
ク!」と高た
か
らかに宣言する。どうしたらいいのか分からないので、俺はじっとしていよう。
とりあえず双子に任ま
か
せたほうがよさそうだ。
すると突然、真っ白だった部屋にサイバーチックな光が走り、目の前に、半は
ん
透とう
明めい
に色付
けされたウィンドウらしき物が音もなく開いた。
続いて、優しそうな女性の声が響き渡る。
『15歳以下のプレイヤーを確認。20歳以上のプレイヤーの引い
ん
率そつ
を確認。ようこそ【REA
L&MAKE】の世界へ!
わたしはメイク部屋の案内人でもあり、この世界を見渡す者。
R&M、それはもう1人の自分が織お
り成な
す物語。何をするのもあなたの思うまま。さぁ、
手元のウィンドウに情報を入力して、わたしの創つ
く
り出した世界、ラ・エミエールを冒険し
1415 のんびり VRMMO 記 1
テンションの高い雲雀の話にはついていけなかったが、助けを求めて鶲を見れば、俺で
もどうにか分かるように話してくれた。とりあえず、タンクは大変な職業だと覚えておこう。
しばらく待つと、雲雀のキャラメイクが終わったようで、誇らしげに胸を張りながら、
俺と鶲にウィンドウを見せてきた。
「私達が15歳以下なのは変わらないし、3人で固定Pパ
ーティT
なのは決定だもんね。うん、でーっ
きた!」
【プレイヤー名】
ヒバリ
【メイン職業/サブ】
見習い天使レベル1/ファイターレベル1
【HP】198/198
【MP】74/74
【STR】24
【VIT】26
【DEX】17
【AGI】18
【INT】19
【WIS】14
【LUK】23
【スキル5/10】
剣術1/盾術1/光魔法1/
HPアップ1/VITアップ1
【控ひか
えスキル】
【装備】
石の剣/木の盾/冒険者の服(上下)/
冒険者の靴くつ
/見習い天使の羽
1617 のんびり VRMMO 記 1
「回復しながらのタンク役って、私の夢だったんだー。ファイターは盾騎士狙ねら
い、天使を
育てればある程度魔法弱点がなくせるし。んー、完か
ん
璧ぺき
!」
え?
お、お兄ちゃん、妹の話について行けないよ……。
その都つ
度ど
説明するとは言ってくれたが、もう最初からさっぱり分からん。
俺がやったことのあるゲームと言えば、竜ド
ラ
ゴ
ン
○
エ
ス
ト
を倒しに行くやつの5……だったか?
それ
も多分、30分とやってない。
聞けばSTRは力、VITは体力、DEXは器用さ、AGIは敏び
ん
捷しょう
性せい
、INTは知能、
WISは魔力、LUKは運を意味するらしい。
混乱する俺に構か
ま
わず、次は鶲が楽しそうに、慣れた手付きでウィンドウにタッチしてい
く。ポツリ、ポツリと小さくつぶやく鶲に、俺と雲雀は思わず苦笑した。
「私は身軽さを重じゅう
視し
する。索さく
敵てき
、忍び寄って敵を後ろから狩か
る。雲雀ちゃんとお揃いの職
業、限定職も入れて……完か
ん
璧ぺき
」
【プレイヤー名】
ヒタキ
【メイン職業/サブ】
見習い悪魔レベル1/シーフレベル1
【HP】153/153
【MP】87/87
【STR】16
【VIT】14
【DEX】23
【AGI】25
【INT】16
【WIS】21
【LUK】19
【スキル5/10】
短剣術1/気配察知1/忍び歩き1/
闇魔法1/DEXアップ1
【控えスキル】
【装備】
石の短剣/冒険者の服(上下)/
冒険者の靴/見習い悪魔の羽
1819 のんびり VRMMO 記 1
「おぉ、気配察知は大事だよねー。ひぃちゃん、頼たよ
りにしてるよ!」
「任せて」
「さ、次はつぐ兄ぃの番だよ!
うーん。つぐ兄ぃは、どんなキャラにしよっかねぇ?」
「生産系、でも戦える。……つぐ兄は運う
ん
動どう
音おん
痴ち
。テイマー系?」
「テイマーいいね~。つぐ兄ぃと可愛い魔物、絶対似合うもん!」
「ん。溢あ
ふ
れ出るつぐ兄の色いろ
気け
で魔物を篭ろう
絡らく
する」
「……は?
え?
よく分からないが、それで大丈夫……だと思う。あと、俺は運動音痴
じゃなくて、運動が得意ではないだけだ」
2人は俺のウィンドウを見ながら、あーでもないこーでもないと話し始めた。
職業に合わせたスキル選びがとても大事で、今選ばないものは、買うかクエストでしか
手に入らないそうだ。俺はよく分からないけど、2人はゲームについてきちんと調し
ら
べてた
んだな。
あと、繰り返すけど俺は運動音痴じゃない。そりゃ体育の成績はギリギリだったけど、
一応人並みのはずだ。
2人に頼りながらウィンドウの空く
う
欄らん
を埋う
め、それを見返してみる。やっぱりよく分から
ないが、とりあえず確認。
【プレイヤー名】
ツグミ
【メイン職業/サブ】
錬金士レベル1/テイマーレベル1
【HP】94/94
【MP】164/164
【STR】11
【VIT】8
【DEX】19
【AGI】7
【INT】26
【WIS】23
【LUK】14
【スキル5/10】
錬れん
金きん
1/調合1/合成1/料理1/テイム1
【控えスキル】
【装備】
革の鞭むち
/錬金士のローブ/
冒険者の服(上下)/テイマーブーツ
【テイム0/1】
2021 のんびり VRMMO 記 1
「か、かわのむち……」
ステータス画面で、装備の欄らん
に目が留と
まってしまった。妹達の説明によると、選んだ職
業によって、使用可能な武器がランダムで1つもらえるらしい。
錬れん
金きん
士し
は分ぶ
厚あつ
い本で、テイマーは革の鞭むち
……ぶっちゃけ、どっちの武器をもらったとし
ても大差ないような。
「ん、つぐ兄は装備品に付ふ
加か
を付けたり、ポーション作ったり、おいしい料理を作ったり」
「あ、このゲームには、満ま
ん
腹ぷく
度ど
と給きゅう
水すい
度ど
があるからねー。ゲージがなくなる前に、食べ物
と飲み物を口にしなきゃいけないって決まりなんだ。だからつぐ兄ぃの料理には、色々と
お世話になりますっ!」
「ふーん……あ、最後に設定があるぞ」
分からないことばかりだが、2人がこんなに嬉う
れ
しそうなのだからまぁいいか。結局のと
ころ、楽しんだ者勝ちだ。2人の様子から、ちょっとだけ学んだぞ。
メイク完了のボタンを押すと、最後に設定を変更する画面が映し出された。
妹達に勧す
す
められるまま、「PvP対象不可」「PK対象不可」「残ざん
酷こく
な描びょう
写しゃ
減」のチェッ
クボックスにレ点を入れた。
変な人に絡から
まれた時の対策、そしてグロテスク耐性のないであろう俺への配はい
慮りょ
らしい。
最後に完了ボタンを押せば、先ほど聞こえた優や
さ
しそうな女性の声が、再度響いた。
『引率者のログアウトは、全員のログアウトとなります。15歳以下の方とはぐれた場合の
緊きん
急きゅう
措そ
置ち
としてご活用ください。では改めて、ようこそ【REAL&MAKE】の世界へ。
わたしはあなた達を歓迎します!』
その言葉の約5秒後。視界が真っ白に染そ
まり、またも意識が沈んでいく。
今度はそこまで不快ではなかった。慣れてきたのか、仕組みが違うのかは分からない。
◆
◆
◆
――あたりがザワザワと喧けん
騒そう
に包まれている。ゆっくり目を開けば、俺は石いしだたみ畳が敷し
かれ
た噴ふ
ん
水すい
のある広場に佇たたずん
でいた。
よく見ると、噴水の水飛し
ぶき沫
1つ1つが、細かく再現されていることに気付く。
俺はかつて大学の資料で見た、中世ヨーロッパにいるような錯さ
っ
覚かく
に襲われた。
22
「……すごいな」
目の前を歩いて行く、武器を腰に提さ
げた冒険者。行商人の露ろ
店てん
が集まった広場に買い物
に来たであろう主婦。木の棒ぼ
う
を持って走り回る子供。石や煉れん
瓦が
で出来た建物は本物にしか
見えない。
俺の髪を爽さ
わ
やかな風が優しく撫な
でた。その風に乗り、露店で肉が焼かれる香こう
ばしい匂にお
い
もする。
思わず感か
ん
嘆たん
して呆ぼう
然ぜん
としていると、不意に両腕に重みが掛かった。
その慣れた感覚にはっとして視線を向ければ、そこには雲雀と鶲。
「つぐ兄ぃ、すごく綺麗でしょう?
謳うた
い文句通り、まさにもう1つの世界!」
「あぁ……これならみんながやりたがる訳だ」
してやったり、という表情を浮かべる雲雀に向かい、俺は素直に頷うなずい
た。
「もう1つの世界」と、ゲーム会社が大だ
い
々だい
的てき
に謳うのも分かる。どれが俺達と同じプレイ
ヤーで、どれがゲームの用意したN
ノンプレイヤーキャラクター
PCなのか、見分けが付かなかった。
2425 のんびり VRMMO 記 1
れだけ覚えてれば大丈夫、って内容を教えてくれればいいよ」
「むーっ、私はヒバリ
4
4
4
だよ、ツグ4
4
兄ぃ。あと、ツグ兄ぃを蔑ないがしろ
にするのは嫌!」
「私はヒタキ
4
4
4
、ふふっ。ツグ兄のために簡かん
潔けつ
に説明する」
頭を抱かか
えながら唸うな
っていたヒバリが、頬ほお
を膨ふく
らませて怒った。一方のヒタキは、どこか
面おも
白しろ
そうに小さく笑った。
呼び方のニュアンスで怒られたらしい。どうやらゲームの中では、ちょっと違う2人に
なりたいようだ。よく分からないけど。
ヒバリより説明がうまいヒタキに教えてもらい、設定を頭に詰つ
め込む。自分なりに纏まと
め
ると……。
広大な世界ラ・エミエール。今、俺達がいる街アースは通称「始まりの街」と呼ばれ、
冒険者となったプレイヤーは例外なく、この地点からのスタートになるらしい。
何故かと言われても、それは運営と大人の事情……とのこと。
冒険者として魔物を倒し名声を得るもよし、商売を始めて富を築き
ず
くもよし、鍛か
冶じ
屋や
にな
ろうが農業をしようが構わない。極
きょく
端たん
な話、王様にも魔王にもなれる。
自由度が高過ぎて、何かしら目的がないと駄だ
目め
な人にはオススメできないゲームらしい。
「R&Mでは、ある程度のことは自由にできる。私は2人といられるならそれでいい」
「つぐ兄ぃ、とりあえず簡単なことから説明するね。そこのベンチ座ろうか」
雲雀は腰に石の剣、左腕に木の盾を装備。動きやすそうな半は
ん
袖そで
の上うわ
着ぎ
に、短パンと靴くつ
を
身に付け、さらに真っ白な小さい羽を背中に生は
やしていた。
鶲は太ふ
と
股もも
にベルトを巻き付け、そこに石の短剣を差している。服と靴は雲雀と変わらな
いものだ。そして背には、真っ黒い蝙こ
う
蝠もり
を模も
した小さな羽があった。
羽は動くらしく、2人の動きに合わせてかすかに羽ばたいている。
俺はというと、服こそ双子と変わらないが、腰には何の役に立つのか不安しかない革の
鞭。あとは大きなフードが付いた白いローブと、編あ
み上げブーツだ。
フードを被か
ぶ
ったら完全な不ふ
審しん
者しゃ
になってしまう可能性があるので、無む
闇やみ
に被らないよう
にしよう。
「えーと、まずここの地理の説明でしょ。アイテム補ほ
充じゅう、
今日は何するか、あとは……」
「システム説明も。現実とここの時間差、その他諸も
ろ
々もろ
。いっぱいある」
「雲雀、鶲。俺は保護者だが、お前達が遊ぶのを制約しようとは思ってないからな?
こ
2627 のんびり VRMMO 記 1
システム面では未成年への配はい
慮りょ
が施ほどこさ
れ、ゲーム内での飲酒は20歳以上、そして全面禁きん
煙えん
。
どうやって年齢を見分けるのかと言えば、高速演算と脳波測定を用も
ち
いて、最後の砦とりでであ
るAIが頑張るとのこと。……AI頑張れ。
18歳以下へのハラスメント行為は1発退場、つまりアカウント削さ
く
除じょ
になる。1人1アカ
ウントしか取得できないらしいので、2度とプレイ不可能みたいだ。
18歳以下にビクビクしなきゃいけないのか、という論争もあったらしいが、プレイを監か
ん
視し
するAIがいるらしく、公平な判断を下くだ
してくれるとか。
こっちもAI頑張れ。超頑張れ。でも結局、最終決断を下すのは運営だからな、運営も
頑張れ。
ゲーム世界での1日は現実世界の30分で、連続ログイン可能時間は7時間。
健康への配は
い
慮りょ
から、直前にログインしていた時間と同じだけ間を置かないと、再ログイ
ンできない仕組みになっている。ゲーム内では元気でも、現実で病気になったら世話がない。
そのためか知らないけど、R&Mの料理全般はあまりおいしくないらしい。
ゲームの食事で満足して、現実を疎お
ろそか
にするな、っていう警けい
告こく
かな?
話は逸そ
れるが、病気などで身体が不自由な人向けに、病院がこのゲームを導入してたり
もするらしい。実際には足が動かなくても、脳の電気信号を読み取ればゲーム内では歩け
る。技術の発達はすごいな。
PvPは、最初の設定で不可にチェックを入れた俺達は申し込まれない。
またPK不可なので、攻撃を受けても、1ダメージも入らないんだと。子供プレイヤー
は狙われやすいらしいし、そうしておいてよかった。
残酷な描写も抑え目の設定。魔物を攻撃しても血は出ず、倒した際は光の粒つ
ぶ
となって消
える。
あと、魔物の姿かたちがちょっと可愛らしくなるとか……これはプレイヤーも同様だ。
最後にステータス画面を開くと、右下に【R&M攻略掲示板】【運営へのお問い合わせ】
【ログアウト】というボタンが並んでいた。
攻略掲示板は、ゲーム内で閲え
つ
覧らん
したり書き込んだりできるらしい。
めちゃくちゃお世話になると2人が言っていたので、暇ひ
ま
な時にでも目を通しておこう。
「……ふぅ。今私が言えるのはこれくらい」
「ありがとう、ヒタキ。あとは疑問が出た時に、質問させてもらうよ」
「じゃあ話は終わりだね!
道具屋に行ってアイテムを揃そ
ろ
えて、早速街の外に行こう!」
長い説明を終え、ヒタキは少々疲れた様子で息をついた。
俺が労いたわるように頭を撫でるのと同時に、ヒバリがぴょんっと立ち上がる。どうやら長い
2829 のんびり VRMMO 記 1
話に退屈していたようだ。
俺とヒタキも、ヒバリに急せ
かされるように腰を上げ、歩きながら話す。
「フレンド登録完了。PT固定化済み。所持金は私達が1500Mミュ
ずつ。ツグ兄が
6000M」
「ん?
俺の方が断だ
ん
然ぜん
多いな?
成人済みの人間が財布の紐ひも
を握れ、ってことか?」
「そうかもねー。私は無む
駄だ
遣づか
いしちゃうと思うし、ツグ兄ぃに任せとこー」
ゲーム内通貨は何とも可愛らしい呼び名のM(ミュ)だ、覚えないと。
ステータス画面を開きながら色々と確認しているヒタキを横目に、あたりを見渡す。
噴ふん
水すい
広場から続く大通りには大勢の人が繰り出し、露店の数もすさまじい。活気溢れる
場所なんだろうけど、初心者の俺は圧倒されてしまう。
……何だか周りの冒険者にジロジロ見られている気がするんだが、妹達はお構いなし。
5分ほど歩いているとヒバリが道具屋を見つけ、中に入って行く。
ドアには小さなウェルカムベルが付けられており、可愛らしい音を鳴り響かせた。
「わぁぁぁー、ファンタジーのお店だねぇ!」
「満腹度と給水度の回復用に携帯食料、水す
い
筒とう
は必ひっ
須す
。ポーション、状態異常回復薬、ツグ
兄のスキル上げ用に錬れ
ん
金きん
、調合、料理セットが欲しい」
「薬草、毒消し草ねぇ……。意外にいい値段するし、何を買うかちゃんと吟ぎ
ん
味み
しないとな」
「あ、私は光魔法メディ(小回復)があるから、あまりポーション要らないかも?」
木造の道具屋は都会のコンビニ程度の広さ。壁の棚たな
には雑ざっ
多た
に物が並んでおり、ヒバリ
は目を輝かせた。
もちろん道具にお金を掛けるのはいいが、破は
産さん
しては元も子もない。それくらいは俺で
も分かる。
【下級ポーション】×3
薬草を煎せ
ん
じた汁を硝が
ら
子す
瓶びん
に入れた物。HP30%回復。売値250M。
【毒消し草】×3
魔物の毒を治な
お
す草。苦に
が
い。売値80M。
【携帯食料】×6
栄養満点。満ま
ん
腹ぷく
度ど
回復。味はない。売値50M。
【水筒(小)】×3
3031 のんびり VRMMO 記 1
300ミリリットルの容量。給水度回復。売値300M。
【初級錬金セット】×1
釜、台、かき混ぜ棒が付いたお得な初級錬金セット。売値500M。
【初級調合セット】×1
乳にゅう
鉢ばち
、薬や
研げん
、薬包紙、秤が付いたお得な初級調合セット。売値500M。
【初級料理セット】×1
包丁、まな板、フライパンが付いたお得な初級料理セット。売値500M。
これら全部で3690M也な
り
。初期投資にはお金が掛かるので、これくらいは仕方ないだ
ろう。
日ひなた向
ぼっこしながら店番をしていた優しげなお婆ばあ
さんに、水筒に水を入れてもらった。
道具屋を出て、3人で均き
ん
等とう
にポーション類を分けた俺達は、街の門へ向かう。その際、
俺はアイテム欄ら
ん
の見方を教わった。何とかなりそうだ。
重じゅう
機き
などがないこの世界では、長い年月をかけて石を積つ
み上げるしかないであろう立派
な街壁に近付くと、ますます喧け
ん
噪そう
が増していく。
「火ひ
魔ま
職しょくです!
PT拾ってくだしあ~」
「鉄装備売ります!
値段は交渉で」
「ギルド【南かぼちゃ瓜
の煮に
っ転ころ
がし】に入りませんか?
初心者歓迎です!」
様々な冒険者プレイヤーが、街の外に向かう同じ冒険者へ叫んでいる。よく分からない
俺は、妹達の後ろに付いて行くしかない。
「まずは3人でレベル上げしたいよねぇー。無理にPT人数増やして、嫌な思いしたくな
いしさっ」
「近寄って来る人はきっと15歳以下目当て。ロリコン、駄目、絶対」
「俺は何したらいいか分からないし、ヒバリとヒタキが楽しければそれでいいぞ」
「えへへ。のんびりまったりやろうね!
弱い敵探して、素材採さ
い
取しゅ
もしよう~」
「最強とかお金じゃない、楽しければOK。のんびりやる」
街の外には広大な草原があり、その向こうには木々の生お
い茂しげ
る森が見えた。
巨大な鉄製の扉をくぐり、俺達は歩を進める。
鉄製の扉は完全に上がりきっており、夜になっても閉まらないらしい。この付近には弱
い魔物しか出ないからだとか。
3233 のんびり VRMMO 記 1
直近の狩かり
場ば
は他の冒険者で埋まっているようで、それを避さ
けるため、森の近くまで足を
延の
ばす。
先ほど買ったポーションの素材などが採と
れるので、一いっ
石せき
二に
鳥ちょうだ
と2人は言う。へぇ、な
るほど。
「お、ウサギが跳は
ねてる。ちょっと可愛いな」
「あれはホップラビだね。草食系の魔物だから、こっちから攻撃しなきゃ敵対はしないね。
倒すと兎
うさぎ
肉にく
、兎の毛皮をドロップするよ!」
視界の端はし
で白い物体が飛び跳ねるのが見えたので、そちらに顔を向けると、体長20セン
チくらいの兎が多数、草を食べていたり休んでいたり。
リアルの兎より足が発達しているかな?
それ以外は、特に違いは見られないと思う。
「初戦闘……?
スキル【忍び歩き】。行って来ます」
「……俺はここで見とくわ。鞭なんて使ったことないし」
「ははっ、そうだね。使ったことがあったらびっくりだよ。私達の勇ゆ
う
姿し
を見てて、ツグ兄ぃ!」
ヒバリが腰に提げた石の剣を抜くと同時に、ヒタキはスキルを発動させて、ホップラビ
の死し
角かく
から忍び寄って行く。
邪じゃ
魔ま
しても悪いので、俺は少し離れた場所で待機することにした。そのついでに、何か
収しゅう
穫かく
できるものがないか茂しげ
みを探さぐ
ってみようか……。
★ヒバリ視点★
目の前には草を食は
んでいるホップラビ達。私は近付いても逃げないギリギリの距離に立
ち、スキル【忍び歩き】で回り込んでいるひぃちゃんを待つ。
草食系の魔物も1回攻撃を当てれば、逃げずに戦うようになるから、上う
手ま
くやらない
と……。
挟はさ
み込むように2人で立ち、私はひぃちゃんと目を合わせる。準備ができたようなので、
ゆっくりと頷く。
ふわふわした毛並みと可愛らしい外見をしたホップラビに罪はないけど、私だって強く
なりたいもん。右手に持った剣をギュッと強く握る。
私が頷いたのを見たひぃちゃんは、ホップラビに石の短剣を叩き付ける。弱い武器だけ
3435 のんびり VRMMO 記 1
ど、不意打ちだから多めにHPが削け
ず
れた。
ひぃちゃんのスキル【不意打ち】は、敵の死角から攻撃を当てた場合、ボーナスとして
その一撃の攻撃力が1・5倍になる。
「っ、【不意打ち】成功」
「追撃するよっ!」
短剣を叩き付けられたホップラビ以外の仲間が、我わ
れ
先さき
に逃げて行く。
それに気を取られないように注意しつつ、短い悲鳴を上げてひぃちゃんの方へ身体を向
けたホップラビの背中に、私は全力で石の剣を叩き付けた。
ドカッという鈍ど
ん
器き
で殴な
ぐ
ったような音が響き、ホップラビは私への敵ヘ
イ
ト愾心を剥む
き出しに
する。
まだ装備が弱いから、何回か叩かないと倒せないみたい。鉄の武器が欲しいけど、今の
私達には手が届と
ど
かない高た
か
嶺ね
の花だ。
与えたダメージはひぃちゃんより私の方が上だったので、確かにヘイトは私に移った。
木の盾でホップラビの突進を受け止めながら、ひぃちゃんに叫ぶ。
「盾になるから、ひぃちゃん、こっち来て!」
「ん」
ひぃちゃんが私の斜な
な
め後ろに来るのを横目で見ながら、自分のHPを確認。
あ、防御したのに6も減ってる!
確かに初めてで押され気味だけど、ちょっと不本意
な気がしてならない。
「むー……ツグ兄ぃよりHP高いから気にしない。気にしないもん……」
「余よ
所そ
見み
しない。ホップラビのHPは残り3分の1。コンボで終わり」
「うん……はぁっ!」
ちょっと拗す
ねたら、ひぃちゃんに怒られちゃった。でも、まだまだツグ兄ぃよりHPが
高いのは確か。あ、そう考えたら気分浮上した。
気合いを入れ直し、ホップラビ渾こ
ん
身しん
の突進を受け止めて、剣で叩く。そして私の攻撃に
続き、ひぃちゃんも短剣を叩き付けた。
するとホップラビの動きが止まり、キラキラした光の粒となって消えていく。
その間、わずか数秒。どうやら今の攻撃で、ホップラビのHPを削り切ったみたい。
3637 のんびり VRMMO 記 1
「はっ、初勝利!?」
「やった。おめでとうヒバリちゃん」
「ひぃちゃんの不意打ちがあったからだよぉー」
「ん、2人の勝利」
ステータスやアイテム確認を後あ
と
回まわ
しにして、私達は初勝利を喜んだ。
嬉しくてひぃちゃんの手を握り、ぴょんぴょんと飛び跳ねてしまう。少し子供っぽいけ
ど、表現としてはこれが一番。ひぃちゃんも嬉しいのか、微ほ
ほ
笑え
んでいる。
一ひと
頻しき
り喜んでから、ふと気付く。ツグ兄ぃは?
勝ったら声を掛けてくれそうなのに。
私はあたりをキョロキョロと見渡しながら思う。って言うか、いなくない?
「ひぃちゃん、ツグ兄ぃがいなくなっちゃった!」
「……ツグ兄、迷ま
い
子ご
?」
「ふはっ、私じゃないのに珍
めずら
しいねー……って違う!」
「ヒバリちゃん自じ
虐ぎゃく
」
ど、ど、どうしよう、どうしようっ!
こんなネタ披ひ
露ろう
しても、笑い取れないよ!
ツグ兄ぃまだ魔物をテイムしてないから攻撃手段ないし、死に戻りしてたらどうしよ
う! 初し
ょ
っ端ぱ
な
から嫌な思いしてR&Mに来たくなくなったら困るし、せっかく久し振りに兄妹
で遊んでるのに、離れ離れになるのも……。
「大丈夫。ステータスでPT位置情報見れるから」
「あ、そ、そうか。それならツグ兄ぃ探せるね!」
「ツグ兄の位置は……」
ひぃちゃんがステータスを開き、ツグ兄ぃの位置を確認してくれた。困った時のひぃ
ちゃんは、すごく頼りになる。
ひぃちゃんがゆっくり指ゆ
び
差さ
した方向に顔を向けると、人の腰ほどの高さまで草が生えた
茂み。
……え、何してんの?
◆
◆
◆
3839 のんびり VRMMO 記 1
ホップラビに戦いを挑いど
む妹達の姿が視界の端に映るように気を付けながら、茂みを覗のぞ
き
込む。
少し見ていたが、2人ともさすが無む
類るい
のゲーム好きとあって、手慣れた様子だ。
んで聞いた話によると、こういう場所に薬草とかが生えてるらしい。
「……お、ビンゴ」
目を凝こ
らしてあたりを見渡せば、先ほど道具屋に置いてあった薬草と同じ形をした草を
発見した。その隣には、毒消し草と酷こ
く
似じ
した草も。
近くに色んな草が生えているので、気を付けて毟む
し
る必要があるな。
ヒバリ、ヒタキ、お兄ちゃんやっと役に立ちそうだよ。そんなことを思いながら、しゃ
がみ込んでブチッと引っこ抜く。
抜いた直後の草は匂いがよく、気分が上昇。これなら飽あ
きずにやれそうだ。
【薬草】
軽度の傷口に薬草を塗ぬ
ると、たちまち治る優れもの。HP10%回復。
【毒消し草】
魔物の毒を治す草。苦い。おひたしにすると苦に
が
味み
が緩か
ん
和わ
され、うまい。
【雑草】
何故抜いたし。基本何も役に立たないゴミ。
【ハーブ】
肉との相あ
い
性しょう
抜ばつ
群ぐん
。色々な臭みを消すため、大人気。
おぉ、抜いた瞬間ウィンドウが開いて、何の草なのかを教えてくれるようだ。便利。
ただのゴミで何の役にも立たない雑草を捨てながら、その他を……えっとアイテムボッ
クス?
インベントリか?
に収
しゅう
納のう
していく。雑草は自然に還かえ
るといいよ。
そう言えば、量はどれくらい必要なんだろうか?
いや、考えるより、たくさん集める
方がよさそうだ。回復アイテムは、いくらあっても邪魔になるなんてことはないはず。
休日の親父のように、無む
心しん
で草を毟り尽くしてくれる!
――――――ぼとっ。
「ん?
な、何だ……?」
4041 のんびり VRMMO 記 1
もはや戦っている双子のことを忘れ、ひたすら草を集めていた俺。30枚くらいずつ集まっ
た頃、まるでそれは、見み
計はか
らったかのように俺の近くに落ちて来た。
音はあまり大きくなかったが、俺は思わず驚お
どろい
て、ビクリと肩を跳ねさせてしまう。不
意打ちだったし仕方ない。何かが茂みで一生懸命ゴソゴソしている。
「シュ、シュッ~」
「あー……蜘く
蛛も
か?」
茂みを掻か
き分けたその先では、引っくり返った蜘蛛がもがいていた。どうやら自分で身
体を戻すことができないらしい。体長は30センチほどあるが、もともと可愛らしいハエト
リグモをデフォルメしたような外見をしている。
ちょっと可か
哀わい
想そう
なので、俺は手伝ってあげることにした。多分敵の魔物なんだろうけど、
助けるんだから攻撃するんじゃないぞ。
ちなみに、手て
触ざわ
りは縫ぬ
いぐるみのような柔らかさだった。
「ほら、直ったぞ」
「シュシュ~ッ!」
「ん?
帰んないのか?」
「シュッ、シュ~?」
どうやら立ち去る気なし。真ん丸な目を俺に向け、首を傾かし
げている。
まぁ、可愛らしいからよしとしよう。攻撃してこないみたいだし、今にどこかに行くだ
ろうと、俺は蜘蛛に背を向けて草毟りを再開した。
すると蜘蛛が俺の背中を伝い、ローブのフードにもぐり込んでしまう。フードは大きく
ゆったりと作られているので、蜘蛛が入ってもまだまだ余裕があった。
「シュ~シュッ」
「何だお前……変な奴や
つ
」
害がなければ構わない、の精神で放っておいた。人間の俺が、出会ったばかりの蜘蛛と
コミュニケーションを取れる訳でもないし。
草毟りを再開した直後、俺はまたも邪魔されることになる。今度は忘れていた妹達の声
によって。