+ All Categories
Transcript
Page 1: 04 63 特集 - NTT · 視聴品質最適化技術(品質API) ... ドワンゴとの連携による検証実験 2014年7月3〜4日に,Android端 末でドコモLTE回線を経由し視聴し

ドワンゴ×NTT R&Dコラボレーション

NTT技術ジャーナル 2015.4 55

特集

映 像 配 信 サ ー ビ ス の 視 聴 品 質 最適化

スマートフォンやタブレットなどの端末の普及に伴って,モバイル環境で映像配信サービスを利用するユーザが増えつつあります.光回線に代表される固定ネットワークとは異なり,モバイルネットワークにおいては,映像配信を行うのに十分なスループットが確保されず,映像が途中で停止してしまう事象(リバッファリング)が発生することがあります.図 1 は人間の知覚特性を模式化したもので,人間の知覚特性は緑線が示すようなS字曲線を描くことが知られています.配信映像の配信レートに対して十分なスループットが確保されている際には,視聴品質

(QoE: Quality of Experience) は 知覚特性のとおりとなりますが,スループットが十分に確保されていない場合にはリバッファリングが発生し,図 1の赤線が示すようにQoEを著しく低下させることが知られています(1).

ネットワークのスループットに対して映像の配信レートが低すぎても,高すぎてもQoEを最大化することはできません.最大化するためには,ネットワークのスループットに応じたちょ

うど良い配信レートの映像を配信することが不可欠であり,これを視聴品質最適化と呼びます.

視聴品質最適化技術(品質API)の仕組み

前述の視聴品質最適化を実現するため,映像配信事業者の株式会社ドワンゴと通信事業者のNTTの間で品質関連情報のやり取りを行うインタフェースを開発しました.以後,「品質API」と称することにします.品質APIでは,映像配信事業者に対して,リアルタイムに配信レートをレコメンドする機能

を提供します.NTTネットワーク基盤技術研究所が開発した品質APIを用いて視聴する際の流れを図 2 に示します.

ユーザが動画を視聴する際には映像配信事業者に動画のリクエストが送信されますが,その際に,映像配信事業者のアプリやブラウザを介して,ユーザ属性情報(利用場所,ネットワーク利用形態,端末情報など)を送信します(①).動画の視聴リクエストを受け取った映像配信事業者は,ネットワーク情報と,該当する動画について事業者で用意している複数の画質それ

QoE 最適化 品質API

配信レート

高レート映像符号化によるQoE(画質)向上映像再生

停止によるQoE低下

ネットワーク速度= 5 Mbit/s

QoE

3 6 (Mbit/s)

図 1  映像視聴時の知覚特性

視聴品質最適化技術(品質API)

映像配信事業者の株式会社ドワンゴと通信事業者のNTTが連携することで映像視聴者の視聴品質(QoE)の向上が期待できます.本稿では,NTTネットワーク基盤技術研究所で開発した視聴品質最適化技術(品質API)について紹介します.

山やまもと

本 浩ひ ろ し

司 /河か わ の

野 太た い ち

一 /竹たけした

下  恵け い

佐さ と う

藤 一かずみち

道 /林はやし

  孝たかのり

典 /宮みやざき

崎 賢けんいち

佐さ と う

藤  聡さとし

/木き は ら

原  朴ぼ く

/三み か み

神 行こうぞう

米よねむら

村 和かずまさ

真 /斎さいとう

藤 慎し ん じ

司 /秋あきもと

元 健け ん た

NTTネットワーク基盤技術研究所†1

株式会社ドワンゴ†2

† 1 † 1 † 1

† 1 † 1 † 2

† 2 † 2 † 2

† 2 † 2 † 2

Page 2: 04 63 特集 - NTT · 視聴品質最適化技術(品質API) ... ドワンゴとの連携による検証実験 2014年7月3〜4日に,Android端 末でドコモLTE回線を経由し視聴し

NTT技術ジャーナル 2015.456

ドワンゴ×NTT R&Dコラボレーション

ぞれの符号化条件(配信レート,解像度,フレームレート)を品質APIに送信し,最適な符号化条件の問合せを行います(②).品質APIでは,受け取ったリクエストについて, 3 種類の技術を組み合わせて最適な符号化条件を算出します.その中でもっともQoEが高い符号化条件を応答として映像配信事業者に返します(③).映像配信事業者は受け取った条件でユーザに配信

(④)し,ユーザは視聴した(⑤)後,実績としてスループットの情報を品質APIに投入します(⑥).それにより,最新のネットワーク品質情報を更新し続けて,精度の高い推定ができるようになります.

次に,品質APIの 3 種類の技術を図 3 に示します.まず,含まれているネットワーク情報から,対象のユーザのネットワーク品質(スループットなどの統計値)を推定します(ネットワーク品質推定機能).これは,過去の類似したネットワーク条件におけるス

ループットの実績値,およびネットワーク装置の使用率に関する情報を蓄積した品質データベースからリクエスト到着時のネットワーク品質を推定しています.その後,推定されたネットワーク品質を基に,それぞれの符号化条件の動画を仮に再生した場合に停止する回数をシミュレーションによって推定し(再生停止状態推定機能)(2),

動画の画質と推定された停止回数を基に,過去の実験で得たデータを参照してQoEを推定します(QoE推定機能)(3).

なお,最適な配信条件をより的確に把握するためには,サービスを利用するユーザに関する情報〔利用日時,利用場所,ネットワーク接続環境,利用サービス,利用端末とその状態,操作内容(ユーザ行動),ユーザ属性等の

NTTネットワークNTTネットワーク

Q

Q

Q

QQQ

Q

(品質予測精度向上)(品質予測精度向上) :ネットワーク内部のQoE関連情報

:ネットワーク外部のQoE関連情報(アプリ・端末に関する情報等)

アプリ・端末

NTTネットワークNTTネットワーク

ネットワーク機器

品質データベース

品質API品質API

サーバ

サービス事業者(ニコニコ動画など)

①配信要求①配信要求

(ネットワーク品質予測・QoE推定)(ネットワーク品質予測・QoE推定)②ユーザ属性情報 符号化条件リスト通知②ユーザ属性情報 符号化条件リスト通知

③最適配信条件通知③最適配信条件通知

④最適配信レートでの映像配信④最適配信レートでの映像配信⑤映像視聴⑤映像視聴

⑥ 配信結果のフィードバック⑥ 配信結果のフィードバック

図 2  品質APIを利用した映像配信

再生停止状態推定技術APLレベルの品質をネットワークレベルの測定データから推定する技術

OTTへの情報提供

品質API

OTTからの最適符号化条件の問い合わせ データ

解析機能

ネットワーク品質推定技術過去の蓄積情報からコンテクストごとのネットワーク品質(転送速度)を予測する技術

QoE推定技術QoE(例:MOS値)をAPLレベルの品質から推定する技術

OTT: Over The Top

図 3  品質APIを構成する技術群

Page 3: 04 63 特集 - NTT · 視聴品質最適化技術(品質API) ... ドワンゴとの連携による検証実験 2014年7月3〜4日に,Android端 末でドコモLTE回線を経由し視聴し

NTT技術ジャーナル 2015.4 57

特集

情報〕を取り扱えることが望ましいですが,その一方で,これらの情報はパーソナルデータ ・ 個人情報となり得るため,個人情報保護などの観点から運用上の注意や対処が必要となります.

ドワンゴとの連携による検証実験

2014年 7 月 3 〜 4 日に,Android端末でドコモLTE回線を経由し視聴しているユーザの視聴情報をNTTの品質APIに送信,レコメンド情報を受け配信レートを最適化した場合にどの程度体感品質が向上するか検証実験を行いました.その結果,品質APIによってニコニコ動画利用ユーザの体感品質に大きな改善が見込めることが分かりました.

(1) 再生停止発生率の減少最繁時には33%のユーザの再生停止

が発生しているところ,本技術を適用すると発生率を 1 〜2%に低減させることが可能であることを確認しました.

(2) 体感品質(QoE)の向上ユーザの体感品質であるQoEを試

算したところ,最繁時で約35%の向上,1 日平均でも約20%向上が可能なことを確認しました(図 4 ).

(3) 通信データ総量の低減本技術を適用し,配信レートを最適

化することによる副次的な効果として,通信データ総量が17%低減可能なことを確認しました*.

今後の展開

2014年11月20日より,フィールドでの効果検証を目的に,ニコニコ動画サービス利用者から無作為に抽出した一部利用者を対象に,品質APIに対応したスマホ向けのニコニコ動画公式アプリを配布しました.この公式アプリは検証開始時点で約700万ユーザの方にダウンロードをいただいています.この検証においては,単にQoEの変化を評価するだけでなく,QoEの向上が映像配信サービス事業者にとって重要な経営指標(KPI: Key Performance Indicator)に対してどういう影響があったかについても評価する予定です.ユーザがどのくらい長く映像を視聴したかを示す再生達成率(エンゲージメント)や, 1 日のうちどのくらい長くサービスを利用したかを示すサイ

ト滞在時間などの指標を対象に評価を進める予定で,映像配信事業者とネットワーク事業者の双方にとってメリットのある配信制御方式を完成させていく予定です.

■参考文献(1) S. Latre, N. Staelens, P. Simoens, B.

Vleeschauwer, W. V. Meerssche, F. Turck, B. Dhoedt, P.Demeester, S.V. Berghe, R. Huysegems, and N. Verzijp:“On-line estimation of the QoE of progressive download services in multimedia access networks,” ICOMP 2008, Las Vegas, U.S.A., July 2008.

(2) 河野 ・ 竹下 ・ 山本:“プログレッシブダウンロード型映像配信サービスを対象とした再生停止回数推定モデル,” 信学ソ大,B-11-27, 2014.

(3) 河野 ・ 竹下 ・ 佐藤 ・ 山本:“品質劣化映像の評価時間長が主観品質に与える影響,” 信学総大,B-11-28, 2015.

(左から) 宮崎 賢一/ 山本 浩司

これまで,ネットワーク事業者とサービス事業者がそれぞれ独立に,それぞれの立場で最適化を進めてきましたが,お互いが連携して最適化することで,双方にとってメリットがあることが分かりました.上位レイヤ事業者との連携を通じて,新たな価値を生み出せるネットワーク技術開発を進めていきたいと思います.

◆問い合わせ先NTTネットワーク基盤技術研究所 通信トラヒック品質プロジェクトTEL 0422-59-3365FAX 0422-59-6364E-mail yamamoto.hi lab.ntt.co.jp

*通信データ総量の増減はユーザが利用するネットワーク環境や配信レートのバリエーションにより異なります.

1日平均

QoE(MOS)

2.2

2.0

1.8

1.6

1.4

1.2

1.0

約35%増約35%増 約20%増約20%増

レコメンドなし

最繁時

レコメンドあり レコメンドなし レコメンドあり

図 4  品質APIによるQoEの改善効果


Top Related