Post on 23-May-2020
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日立評論 2017 Special Edition
金融システム
金融・公共・ヘルスケア
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ブロックチェーン技術の金融サービスへの適用1
金融取引の新たな基盤技術として,ブロックチェーンが注目されている。ブロックチェーンには,仲介コストの削減や取引の厳正化・透明化といったメリットがあり,新たな金融サービス・ビジネス創出の可能性を秘めて いる。
日立は,The Linux* Foundation*が主催するHyperledger プロジェクトのコミュニティ活動に参画し,標準化基盤の開発を進めるとともに,セキュリティなどの高信頼化機能を開発し,社会インフラに適用可能なブロックチェーンの実現をめざしている。また,顧客協創の取り組みとして,株式会社三菱東京UFJ銀行とともに,小切手の電子化を対象としたブロックチェーン技術活用の実証実験をシンガポールで推進中である。ブロックチェーン技術を用いて,電子小切手の振り出しや譲渡,取り立てを行うシステムを共同開発し,技術,セキュリティ面での課題抽出を進めている。
今回の実証実験をはじめとして,今後もブロックチェーン技術の実用化に向けた取り組みを重ね,日立は金融サービスのグローバルな発展に貢献していく。
*は「他社登録商標など」(138ページ)を参照
AI適用による証券業務の効率向上と高度化2
金融業界では,トレーダーによる株式や債券の売買,審査担当による口座開設や融資の適格審査など,従来,その分野の専門家が担ってきた業務をAI(Artificial Intelligence:人工知能)で代替する,高度化・効率化に対するニーズが高まっている。
金融システム
(1)借入 申込み
銘柄マスタ マーケットデータ
過去実績(取引データなど)
顧客所有データ
(2)レート提示(3)取引成立
日立 借入業者金融機関
AT/H適用
・ レート予測の 計算式を生成・ 定期的に計算式を 再作成
学習
参照レート予測計算式を元にレート予測を実施 参照提供
レート予測ロジック(計算式) 予測レート
貸株業務担当者
従来, 貸株業務担当者が実施していた部分をAT/Hが生成したロジックで代替
AT/Hを適用したレート予測ロジック生成により, 貸株レート決定の自動化を実現
計算式生成
2 貸株取引における手数料(レート)予測へのHitachi AI Technology/H の適用例
株式会社三菱東京UFJ銀行との小切手実証試験(シンガポール)
金融業務の効率化/迅速化
セキュア ・ 高信頼化
金融デジタルソリューション
高性能化(スループット向上)監査機能付きデータ匿名化 日立強化技術 並列分散合意形成
ブロックチェーン基盤開発(オープンイノベーション) HYPERLEDGERプロジェクト
ブロックチェーン
当局など
監視 ・ 運営
小切手帳発行
参加銀行(三菱東京UFJ銀行など) 参加銀行
金融サービス将来ビジョン
新金融サービス(業種/IoT連携)創出
一般利用者参加企業(日立アジア社など)
小切手振り出し ・ 受け取り
小切手振り出し ・ 受け取り
小切手預け入れ
Blockchain 2.0
Blockchain 2.0 Blockchain 2.0
Blockchain 2.0
Blockchain 2.0
エネルギー
スマートグリッド
サプライチェーン最適化
産業
金融
決済 保険
医療記録スマート化
ヘルスケア
融資
1 ブロックチェーンへの取り組み
注:略語説明 IoT(Internet of Things)
金融・公共・ヘルスケア58
こうした中,日立ではHitachi AI Technology/H(以下,「AT/H」と記す。)を活用し,顧客金融機関と共同で分析や実証実験を実施している。市場データ,銘柄マスタデータ,取引データ,投資家の投資行動履歴データなどを入力とするさまざまな業務について,専門家と同等か,場合によっては専門家を超える判断を,人を介さずに得るための取り組みを行っている。これらの実証実験の中には,証券会社の貸株取引における手数料(レート)の予測など,実用化された事例もある。
日立はこれまで,顧客金融機関に対してAT/Hのような数値解析を得意とするAIを主体に取り組んできた。今後は質問応答型のディベート型AIやディープラーニングも組み合わせ,より広い範囲の業務の高度化・効率化に寄与していく。
金融API連携サービスによる金融機関とFinTechのセキュアなデータ連携3
金融API(Application Programming Interface)連携サービスは,金融機関のシステムと,FinTechサービス企業が主にクラウド上で提供する個人資産管理や会計といったサービスを,セキュアにデータ連携するサービスである。具体的には,日立が提供中のIB(Internet Banking)契約者向けのFINEMAX API連携サービスと,IB契約者以外でも利用可能な普通預金口座を対象とした銀行API連携サービスの2つをメニュー化している。
これまで,口座情報とFinTechサービスの連携は,金融機関のIBのWebページから必要な情報を抽出するWebスクレイピング方式※)が主流であった。この方式では,利用者がID,パスワードなどの認証情報をFinTechサービス上に登録する必要があり,IBの画面仕様の変更のたび,FinTechサービス企業側でシステムメンテナンス作業が必要になるなど,セキュリティ面と
サービス運用面で課題があった。金融API連携サービスはこれらの課題を解決するものであり,金融機関は利用者に対してより安全かつサービス継続性に優れたデータ連携機能を提供できるようになる。
日立はこれからも金融機関ならびにFinTechサービス企業と連携し,オープンイノベーションに取り組んで いく。
※) WebページのHTMLを解析し,データの抽出や加工によって必要なデータを収集する手法。
先進的なローン審査手法に関する実証実験4
AT/HとGIS(Geographic Information System:地理情報システム)などの統計データを活用した,住宅ローンやカードローンなどの先進的な審査手法に関する実証実験を進めている。具体的には,顧客の年齢や収入などローン審査に利用されてきたデータのほか,従来は活用が困難であった地域別の経済指標や各種データの時系列的な変化をAT/Hで分析し,スピードと高い精度が求められる審査業務における人工知能活用の可能性を検討している。
住宅ローンなどの審査に有効なデータ分析を行うには,長期間にわたって収集された大量かつ複雑なデータを利用する必要があり,これまで用いられてきた一般的な統計手法では分析が困難であった。一方,AT/Hはビジネスに関連するあらゆるデータを網羅的に分析し,売上 や コ ス ト, 業 務 の 達 成 度 な ど 組 織 のKPI(Key Performance Indicators)との相関性が強い要素と,KPIを改善する施策の仮説を効率的に導き出す人工知能である。またAT/Hは,大量かつ複雑なデータ分析を得意とすることから,ローン審査における有効性が期待できる。
利用者
FinTechサービス企業
日立 金融機関
勘定系システム
個人IB個人IBAPI連携サービス
金融機関向け
FINEMAX加盟行向けFINEMAX API連携サービス
<個人向け>個人資産管理サービスなど
<法人向け>クラウド会計サービスなど
投資信託IBAPI連携サービス法人IBAPI連携サービス
投資信託IB
法人IB
API
API
バンキングアプリなど
銀行API連携サービス
3 金融API連携サービス概要
行内データ(審査データなど)
入力データHitachi AI
Technology/H
外部データ(経済指標,GIS情報など)
審査モデル(案)
伝統的な審査モデル
比較組み合わせ生成
統計処理により相関関係を発見
4 AT/Hを活用したローン審査実証実験の概要